田中吉史のページ/作品ノート


Duo for soprano saxophone and violin

1999/ sop-sax, vln / 1999年6月17日「齋藤貴志 現在を聴くvol.5 田中吉史作品展」ノナカ・サロン、東京(第1、4曲のみ)、11月1日「齋藤貴志モ現在を聴くvol.6」横浜みなとみらい 小ホール、横浜(第1、2、4曲)にて初演(sax:齋藤貴志、vln:安田紀生子

この全般的なアイディアは、二つの異なる楽器を組み合わせて一つの新しい楽器を作る、ということにある。この作品の多くの部分で、二つの楽器は行動を共に し、様々な濃淡をもつ一つの線を作る。従って、ヴァイオリンとサックスは非常に異質な楽器ではあるけれども、二つの楽器の同期とバランスは演奏において非 常に重要である。

この曲は元々は4つの小品から成るものとして作曲された。
第1曲は、この作品の中心となる第2曲の予期させるような小品である。第1曲の全体的な形は曖昧で、漂うかのような状態にある。
第2曲では第1曲よりも形はより明確になる。フォルテによるユニゾンに始まり、線的運動の様々な変容を経て、ピアニッシモに収束する複数の短いセクション によって構成されている。
第4曲は最初の二つとはきわめて対照的である。最初の二曲がどちらかというと叙情的な作品であったのに対して、第4曲は固く、乾いている。この曲では特 に、ほとんど機械的と言ってよいほどの正確さが要求される。
第3曲は作品の完成後、事故により失われた。曖昧な記憶をたどって復元することもできなくはなかった。ただ、過去の作曲家の作品で、未完成のまま残された ものを思い出してみると、例えばシューベルトの「未完成」や多くのピアノソナタ、モーツァルトのレクイエム、プッチーニの「トゥーランドット」、あるいは 八村義夫の「ラ・フォリア」など、曲の終わりの方だけが書かれずに終わっているものがほとんどで、曲の途中が失われているものはまず見かけない。そう思っ て、第3曲はあえて失われたままにすることに決めたのだった。
聴き手と演奏者には、きわめて異なった二つの曲に挟まれた第3曲がどんなだったのか、想像してほしい。

出版:マザーアース株式会社

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